「ChatGPTに社内の議事録を貼り付けて要約させてもいいのか」「顧客リストを入れて分析させたら情報漏洩にならないのか」。会社でAIの活用が進むにつれて、現場の担当者からよく聞かれる質問です。
結論から言うと、初期設定のままChatGPTに機密情報を貼り付けるのは、ほとんどの会社にとっておすすめできません。一方で「AIを一切使うな」という方針も現実的ではありません。この記事では、海外で実際に起きた事故を起点に、リスクの構造、学習をオフにする設定、法人プランの選び方、中小企業でも回せる社内ルールまでを整理します。
この記事でわかること
- AIが原因の情報漏洩として、海外で実際に起きた事例
- 「シャドーAI」とは何か、なぜ問題なのか
- AIに情報を入れたときの3つのリスク(学習への利用・ログの保存・外部連携)
- ChatGPT・Claude・Geminiの学習をオフにする設定
- 法人プランの違いと、A4一枚で作れる社内ルール
- SEOや記事づくりで社内の情報をAIに渡すときの4原則
AIが原因の情報漏洩はすでに起きている
海外では、AIをきっかけとした情報漏洩の事例が具体的に報告されています。
- Samsungのソースコード流出(2023年):半導体部門の開発者が、社内のソースコードや会議の議事録をChatGPTに貼り付けて要約やバグの修正を頼み、機密情報が社外に出た可能性が指摘されました。同社は社内でのChatGPTの利用を禁止しました
- ロンドンの製薬会社の研究データ:社員が臨床試験に関わるデータをChatGPTに貼り付けて分析を頼んでいたことが、内部監査で分かった事例が報告されています
- Microsoft 365 Copilotの「EchoLeak」(2025年6月に公表):攻撃者がメールや文書に仕込んだ指示にCopilotが反応し、利用者が何も操作しなくても情報が抜き出される弱点が報告されました
共通しているのは、悪意のある攻撃ではなく、善意の社員が仕事を効率化しようとAIを使った結果、情報が漏れたという点です。
シャドーAIとは
シャドーAIとは、情報システム部門が把握しないまま、社員が個人的にAIツールを仕事に使っている状態のことです。会社が認めていない私物の端末やクラウドサービスを仕事に使う「シャドーIT」のAI版と考えてください。
深刻なのは、仕事の機密情報が外部のAIサービスにたまっていく構造です。個人アカウントで仕事の情報を扱っていると、退職した後もそのアカウントに情報が残り続け、会社からは確認も削除もできません。
海外の調査では、機密性の高い会社のデータを個人アカウントのChatGPTに貼り付けた経験がある社員が多いこと、AIが関わる侵害を経験した組織の多くでAIへのアクセス管理が整っていなかったことが報告されています。ここから読み取るべきは「社員がルールを破っている」ということより、多くの社員は悪意なく効率化のために使っていて、社内のルールが追いついていないという現実です。「使うな」と言っても抜け道はできるので、「安全に使える環境を整える」方向に切り替えないと事故は防げません。
リスク1:入力した内容が学習に使われる
ChatGPTの無料プランや個人向けのプランでは、初期設定で入力内容がOpenAIのモデル改善(学習)に使われる設定になっています。設定でオフにしない限り、入力した文章が今後の学習に使われる可能性があります。
「学習に使われる」とは、「すぐに他の人に丸見えになる」という意味ではありません。学習データは大量の文章を統計的に処理するもので、検索のように他人が直接見られるわけではありません。ただ、特徴的な固有名詞や独自の数値、顧客の情報などが将来の出力に影響する懸念はゼロではありません。会社の機密情報、顧客の個人情報、未公開の財務情報、契約書の文面は、秘密保持契約(NDA)や個人情報保護法との関係で問題になり得るため、そもそも入力してはいけません。
リスク2:会話の記録がサービス側に保存される
学習とは別に、OpenAI・Anthropic・Googleのいずれも、不正利用の防止やサポートのために、入力と回答の記録を一定期間保存する仕組みになっています。保存期間はプランや設定で異なり、法人向けのプランでは短くしたり、管理者が制御したりできる場合があります。
記録が残っている以上、サービス側で重大な事故が起きれば、過去に貼り付けた情報が流出する可能性は理屈の上では残ります。サービス側の安全対策は基本的にしっかりしていますが、「外に預けた時点でリスクはゼロではない」という前提で使う必要があります。特に個人アカウントで仕事に使うと、会社側から確認も削除もできない記録が残り続けます。
リスク3:プラグインや外部ツールとの連携
ChatGPTのGPTsや、ClaudeのMCP連携(外部のツールやデータにAIをつなぐ仕組み)など、AIには外部ツールとつなぐ機能があります。便利な一方で、連携先の安全対策によっては、思わぬ情報の流出経路になり得ます。先ほどのEchoLeakはこの種類の代表例で、AIが自分で情報を読み取って動く仕組みである以上、同じような弱点は今後も起こり得ます。
連携を有効にするときは、「どの情報にアクセスできるのか」「データがどこで処理されるのか」「提供会社が安全対策を公開しているか」を、普通のクラウドサービスの導入と同じかそれ以上に確認しましょう。
学習をオフにする設定(オプトアウト)
まず誰でもすぐできる対策が、学習への利用をオフにする設定です。各サービスの画面や名称は変わることがあるため、実際の画面で確認してください。
ChatGPT
- 画面のアカウントアイコンから「設定」を開く
- 「データコントロール」を選ぶ
- 「すべての人のためにモデルを改善する(Improve the model for everyone)」をオフにする
オフにしたあとの新しい会話は、学習に使われなくなります。この設定はアカウントごとで、社員一人ひとりが自分で設定する必要があります。無料・個人向けプランには、会社がまとめて強制する仕組みはありません。
Claude
個人向けプラン(Free・Pro・Max)では、設定のプライバシー項目にある「モデルの改善(Model Improvement)」で、会話を学習に使ってよいかを自分で選びます。オンにしていても、シークレットチャット(インコグニートチャット)は学習に使われません。また、回答への評価(高評価・低評価のボタン)を送ると、その会話は最長5年保存され、学習に使われる場合があります。仕事で使うときは評価ボタンの使い方にも注意しましょう。法人向け(Claude for WorkのTeam・Enterpriseプラン、API)は、初期設定では入力と回答を学習に使いません。
Gemini
個人版のGeminiでは、「Geminiアプリ アクティビティ」の「アクティビティを保存(Keep Activity)」をオフにすると、それ以降の会話はAIモデルの学習に使われなくなります(フィードバックを送った場合を除く)。ただしオフにしても、会話は回答のために72時間保存され、品質や安全のために人のレビュー担当者が読む場合があります。Google Workspaceの契約で使うGeminiでは、組織内のデータを生成AIモデルの学習に使わないことが契約で示されています。
なお、学習をオフにしても、入力した内容がサービス側に送られること自体は変わりません。オプトアウトは必要な対策ですが、それだけでは十分ではありません。
法人プランの比較
仕事で使うなら、法人プランへの移行がほぼ必須と考えてください。
| 項目 | ChatGPT Business(旧Team) | ChatGPT Enterprise | Claude for Work | Gemini for Workspace |
|---|---|---|---|---|
| 対象 | 少人数のチームから | 大規模な組織向け | チーム〜大規模な組織 | Google Workspaceを契約している組織 |
| 学習への利用 | 初期設定でなし | 初期設定でなし | 初期設定でなし | 初期設定でなし |
| 記録の保存 | プランの規定に従う(契約前に確認) | 管理者が保存期間を設定できる | プランの規定に従う(契約前に確認) | Workspaceのポリシーに従う |
| 管理機能 | チームの管理 | 監査ログ、シングルサインオンなど | 管理コンソール | Workspaceの管理コンソール |
中小企業なら、まずChatGPT Business、Claude for Workのチームプラン、すでにWorkspaceを契約していればGemini for Workspaceのいずれかから始めるのが現実的です。人数が少なくても、「個人アカウントでの仕事利用」から「会社が管理できるアカウント」に移すこと自体に大きな価値があります。
- アカウントごとに、会社が利用状況を確認・削除できる
- 契約で学習に使わないこと、データが分けて扱われることが定められる
- 退職した人のアカウントを確実に止められる
- 事故が起きたときの責任の所在がはっきりする
選ぶときは「入力が学習に使われない」「記録や監査の機能がある」「シングルサインオンや権限管理に対応している」「データ処理に関する契約が整っている」の4点を確認しましょう。
中小企業でも回せる社内ルールの作り方
ステップ1:A4一枚のルールから始める
最初に作るのは、分厚いAI利用規程ではなく、A4一枚の「やってよいこと・いけないこと」のリストです。作り込みすぎると、いつまでも公開されません。
- 個人アカウント(無料・個人向け有料プラン)での仕事利用を禁止する
- 仕事で使うのは法人プランだけにする
- 顧客の個人情報・未公開の契約情報・財務情報・パスワードやAPIキーは貼り付け禁止
- 公開する予定の記事、マーケティングの素材、一般的な調べものは、法人プランで自由に使ってよい
- プラグインや外部ツールとの連携を有効にするときは、IT担当者に相談する
大切なのは「AIを使うな」ではなく「どこまで使ってよいか」をはっきりさせることです。禁止ばかりのルールは、現場で無視されるだけです。
ステップ2:外部の委託先との契約を見直す
記事の執筆や広告の運用を外部に委託している場合は、秘密保持契約に生成AIへの入力についての条項を加えることをおすすめします。たとえば「受託者は、本契約で知った秘密情報を、委託者の事前の書面による同意なく外部の生成AIサービスに入力してはならない」といった内容です。これだけで、委託先での善意の事故を大きく減らせます。
ステップ3:利用状況を定期的に見る
法人プランの管理画面では、利用状況や連携しているアプリを確認できます。専任の担当者を置けなくても、「四半期に一度、30分だけ経営者と情報システムの担当(兼任でも可)で利用状況を見る」程度の運用で十分役立ちます。完璧を目指すより、続けられる細かさで始めることを優先してください。
SEOや記事づくりで社内の情報をAIに渡すときの4原則

SEOの記事づくりでは、AIに社内の情報を渡したくなる場面がたくさんあります。AIで書いた記事が順位を取るには、自社にしかない事例やデータ(1次情報)が欠かせないからです。その理由は「AI SEOとは」で詳しく解説しています。1次情報を渡すときは、次の4原則を守りましょう。
- 法人プランで扱う:個人アカウントでは扱わない
- 伏せられる情報は伏せる:顧客名、固有のID、具体的な金額は、仮名や概数に置き換える
- 「外に出してよい情報か」を一度立ち止まって確かめる:公開記事に載せる前提の情報なら基本的に問題ありませんが、未公開の情報は慎重に
- 機密情報を扱うときは外部連携をオフにする:連携を経由した流出を防ぐため
作業ごとに、どんな情報を渡すことになるかを確認しておくと安心です。
| 作業 | AIに渡しがちな情報 | 気をつけること | 詳しい手順 |
|---|---|---|---|
| キーワード選定 | 商談や問い合わせでのお客様の言葉 | お客様の名前や会社名を伏せる | AIキーワード選定の実践ガイド |
| 構成案・執筆 | 事例、社内の数値、担当者の経験 | 公開してよい範囲に絞ってから渡す | ChatGPT SEOプロンプト集 |
| リライト | Search Consoleのデータ、記事の原稿 | 未公開の施策結果を含めない | AI記事リライトの実務ワークフロー |
| サイト全体の分析 | 記事一覧、アクセスデータのファイル | 読ませるフォルダに関係のないファイルを置かない | トピッククラスター×AI活用 |
パソコンの中のファイルをAIに直接読ませるClaude CodeやGemini CLIは便利ですが、起動したフォルダの中身を読みにいくため、関係のないファイルや機密資料を同じフォルダに置かないことが大切です。使い方と注意点は「非エンジニア向けClaude Code・Gemini CLI入門」で解説しています。
また、AI検索で自社のページが引用されるようにする取り組み(LLMO)では、反対に「AIに読んでほしい公開情報」をどう整えるかが課題になります。公開してよい情報とそうでない情報を分けて考えると、社内の情報管理とAI検索対策の両方が進めやすくなります。AI検索対策の全体像は「LLMO対策とは」、AIに読ませるための案内ファイルは「llms.txtとは」で解説しています。AIで作った記事の品質の線引きは「AI生成記事はペナルティになる?」もあわせてご覧ください。
まとめ
- シャドーAIは他人事ではない。多くの社員が悪意なく個人アカウントのAIに仕事の情報を入れている
- リスクは「学習への利用」「記録の保存」「外部連携」の3つで、それぞれに対策が必要
- 学習をオフにする設定は必要だが、それだけでは足りない。仕事で使うなら法人プランへ
- 社内ルールはA4一枚から始める。「どこまで使ってよいか」をはっきりさせる
- 委託先との秘密保持契約に、生成AIについての条項を加える
- SEOで1次情報を渡すときは、法人プラン・伏せ字・確認・連携オフの4原則を守る
よくある質問
無料版のChatGPTを仕事で使ってもいいですか?
公開済みの情報や一般的な調べものなら使える場面もありますが、学習をオフにしたうえで、機密情報や個人情報は入れないことが前提です。会社として仕事に使うなら、管理できる法人プランへの移行をおすすめします。
学習をオフにすれば、機密情報を入れても大丈夫ですか?
大丈夫とは言えません。学習をオフにしても、入力した内容はサービス側に送られ、一定期間記録が残る場合があります。機密情報は法人プランで扱い、伏せられる部分は伏せてから入力してください。
小さな会社でも社内ルールは必要ですか?
必要です。人数が少ないほど、一人の事故の影響が大きくなります。A4一枚の「やってよいこと・いけないこと」から始めれば、時間をかけずに作れます。
外部のライターや代理店にAIの使い方を指定できますか?
秘密保持契約に、生成AIへの入力についての条項を加えるのが確実です。あわせて、どの情報なら渡してよいかを委託先と共有しておくと、トラブルを防げます。
SEO・AI検索対策のご相談
「社内の情報を守りながらAIで記事づくりを進めたい」「AI検索の時代のSEOを何から始めればいいか分からない」といったお悩みは、ナゾックスにご相談ください。現状を確認し、取り組む順番から具体的にご提案します。
参照:UpGuard「The Shadow AI Data Leak Problem No One’s Talking About」
参照:IBM Newsroom「2025 AI Security Report」
参照:OpenAI「Enterprise privacy」
参照:OpenAI Help Center「How do I disable model training?」
参照:Anthropic「Is my data used for model training?」(個人向け)
参照:Anthropic「Is my data used for model training?」(法人向け)
参照:Anthropic「Commercial Terms」
参照:Google Workspace「Gemini」
参照:Gemini アプリ ヘルプ「Gemini アプリのプライバシー ハブ」
※各社の設定名・プラン名は2026年10月時点の公式ヘルプで確認しました。

